フィンドホーン体験記第5章
フィンドホーン体験記第5章
トランスフォーメーション・クイズ解答
ポジティブ・シンキングはフィンドホーン哲学の重要な部分を占める、と言いましたが、それを一番推し進めていたのは次のうち誰でしょうか?
1、ピーター・キャディ
2、アイリーン・キャディ
3、ドロシー・マクリーン
正解は1、ピーター・キャデイです。もちろん三人ともそうだといえますが、ポジティブ・シンキングのトレーニングを受け、石のような硬い意志でそれに従っていたのはピーター・キャディです。
病気になったアンディ
僕が指圧をしてから、アンディもシャロンも病気になってしまった。よくあることだった。指圧の後で病気になるというのは僕の場合珍しいことではなかった。経絡にエネルギーを注ぎ込むので、身体が自らバランスを取ろうとし、たまっていたストレスや毒素が病気という形で解放されるからである。僕は病気を否定的に捉えていない。病気を通して学ぶことが多いし、人生の方向性を変えるような大きな気づきがもたらされた時の多くも、病気になった時だった。
もちろん、それはすべてを肯定的に捉えた時のことである。ただ単に、僕の指圧が悪かった、ということもあるだろう。
病気はアンディを大きく変えてしまった。あそこまでポジティブだった彼がすっかり元気をなくし、否定的なことを口にするようになった。それには僕の言動も影響している。グループに一体感が感じられないと言ってから、他のメンバーたちもネガティブなコメントを出しはじめた。それはどんどん伝染し、アンディでさえもその流れに飲み込まれたといえるだろう。
「僕は病気になってしまった。気分も落ち込んだ。それが悔しくてしょうがない。強いアンディ、元気なアンディ、いつもみんなに愛を与えられるアンディでいたかったのに。僕にはもうその力はない。なさけない」アンディは言った。
麻薬中毒からオックスフォードへ
高校時代、アンディは麻薬中毒にかかっていた。そこから彼を救ったのはニューエイジとの出会いである。麻薬に逃げるのではなく、瞑想を通して自分の内面と向き合うことにした。やがて彼は一生懸命勉強するようになる。そして、見事、名門オックスフォード大学への入学を果したのだ。195センチ以上ある長身と抜群のルックスを持つ彼は、オックスフォードでも人気の的となった。いつも友人に囲まれ、明るい雰囲気を保っていた。麻薬中毒時代とは大違いだ。だから、彼にとって、ニューエイジとは奇跡をもたらした救世主だったのだ。
みんなに広まったネガティブな感情
今まで発言しなかった人たちもどんどん中央に行って石を取りはじめた。まずはトットネスから来たターラ。「私も、グループには一体感が感じられない。というか、なくてもいいと思うんだけど。なんかここには一体感がなければいけないというようなプレッシャーがある。今まで全然発言しなかったのは、特に言うことがなかったから。でも、それだっていいと思うの。言いたいことがあれば言えばいい。なければ言わなくてもいい。何かシェアーしなければならないっていうプレッシャーがあるのが問題だわ」
次に石を取ったのはドイツから来たキャロラインだ。彼女はバグワン・ラジニーシに興味を持っている。「私もハグは好きだけど、ただ機械的にするのはよくないと思う。本当に抱き合いたいと思う時そうするのはいいけれど、そう思っていないのに儀式的にハグをするというのは、好きじゃない」
統合
次のシェアーの時間でも、多くの人が発言した。みんな思っていることをどんどん言いはじめた。
最後に石を取ったのはペギーだ。「私は、アンディにひとつ言いたいことがあるわ。すっかり元気をなくしちゃったみたいだけど、そんなアンディも、私は好きよ」
その瞬間、アンディは涙を流しはじめた。大男は身体をゆさぶりながら子供のように泣きじゃくった。しばらくして彼は立ち上がり、石を取った。
「ありがとう」彼は何とか言葉にした。「病気になって、落ち込んで、涙まで流してしまった。でも、今ではそれも受け入れることができる。別に、常に強いアンディ、元気なアンディ、みんなに愛を与えるアンディでいなくてもいいんだって。やっとわかったよ。ここ数日間、みんなから気を使われ、親切にされてきた。愛っていうのは与えるだけじゃなくて、受け取ることも大切なんだね。別に弱くてもいい。人間誰だって弱い部分があるんだから。それを素直に受け入れることなんだね」
「I love you, Andy」みんな次々に言った。
やがて、僕は中央に行って石を取った。「僕が今、どう感じているか、みんな知りたい?」僕はそう言って深呼吸をした。「今なら、グループに一体感があるって、感じられるよ」
最終日
いよいよ最終日がやってきた。いろいろなことが起きた一週間だったが、過ぎてしまえばあっという間だ。明日から、みんな違う所に旅立っていく。ルームメイトのトムと、ユリアナ、マリアは、キャラバンパークで行われる『内的世界への探検』というワークショップに参加する。バーナーとキャロラインはニューボールドハウスで行われる瞑想のワークショップに参加し、シェリルとペニラは園芸のワークショップに参加する。アンディとペギーはもうひとつの共同体があるというエレード島へ行く。ティムとエロルはアイオナ島に行き、その後すぐロンドンとブリストルに帰る。シャロンはエディンバラにいる友人を訪ね、ロンドンに帰る。サリーとターラもそれぞれロンドンとトットネスに帰る。サンガもキャロリンもスコットランド南部に帰る。アービンとエレサはスイスへ。デクスターとバーバラはロンドンへ。グレッグはフィンドホーンで育ったデミアンと数日過ごしてからスコットランド南部へ帰る。僕は、本の取材があるので数日ここに残る。泊まるのはキャラバンパークになりそうだ。
僕にとって、先週の土曜日から始まったこの一週間はどうだったのだろう。数字で表すと、5ぐらいから始まって、火曜、水曜と1か2に下がり、木曜の午後から再び5を上回り、金曜になると9か10になった。
疑ってばかりいず、ニューエイジゲームをした時のように、素直に他人の愛を受け入れられるようになってきた。ペギーやアンディは自分が感じている素晴らしい気持ちを正直にグループに伝えていたに過ぎない。なぜ、それを素直に受け止められなかったのだろう。そうしていれば、彼らの感じていた素晴らしい世界を見ることができただろうに。
最後になってそれがようやくわかるなんて・・・
禅・味噌汁作りの芸術
最後の仕事にはプロジェクトがある。僕のは、味噌汁を作ることだ。といっても、60人分作らなければならない。日本人の意地をかけても、マクロビオティックの意地をかけても、成功させなければならない。たまねぎとにんじんとブロッコリー、そしてワカメ。僕はそれらの具を誠心誠意込めて切っていった。レイチェルやサンガ、ディードレも手伝ってくれた。これに関しては僕がフォーカライザー。といっても、実際には、レイチェルやディードレのほうが細かいことに関しては詳しかったので、彼女たちの意見も取り入れる。
できあがると、巨大な鍋を取り囲んでアテューンメントをする。僕は、レイチェルやサンガ、ディードレの目をしっかりと見た。ここでもいろいろあった。このキッチンのことは忘れない。天下のフィンドホーンのキッチンで働いたのだ。きっとこのことは、いつか誰かに話すだろう。
味噌汁は好評で、みなから喝采を浴びた。
カノン
午後、僕らは最後のミーティングを持った。中央に石を置いて輪になった。それぞれ、この一週間感じたことをシェアーしていく。この時は、全員が発言することができた。
そして、締めくくりはカノン・ダンス。輪になって前の人の肩に手を置く。カノンの音楽に合わせ、一歩ずつ足を前に持っていく。右、左と順番にステップを踏んでいく。みんなと目が合った。トム、デクスター、サリー、ターラ、サンガ。そして、アンディとペギー。
涙が出てきた。
終わり
次回からの予定
さて、次回からは共同体員のインタビューの記録を紹介していきます。体験週間が終った後、キャラバンパークに三日滞在し、共同体の取材を行いました。その時の様子をお伝えします。お楽しみに。
トランスフォーメーション・クイズ
禅・味噌汁作りの芸術とは、英語にすると、Zen and the Art of Miso Soup Makingになるわけですが、これはある書名を文字ったものです。日本ではあまり有名ではないですが、英語圏ではベストセラーになったものです。
そこでクイズ。その書名とは次のどれでしょうか?
1、Zen and the Art of Motercycle Maintenance
2、Zen and the Art of Flower Arrangement
3、Zen and the Art of Conscious Healing